桃源郷の人々

その2「苦労の中、それでも取り組む理由は」

感謝農園平井 平井國雄さん Part.2

それだけ大変な苦労を経て認証取得した「グローバルGAP」に平井さんが取り組んだ背景には、東日本大震災があります。平成22年6月に農園経営を始めて1年たたずに震災が発生。未曽有の大災害であっただけでなく、福島にとっては原発事故による影響がありました。それでも、「そこでくじけてしまっては終わりです。ピンチをチャンスにしていく方法を考えて今に至っているんです」と平井さん。パナソニックや東北電力など企業の後押しもあり、スマート農業や「グローバルGAP」など先進的な取り組みを精力的に行いました。

ただでさえ自然を相手にした農業は四六時中、気の休む暇はありません。その上「グローバルGAP」の認証取得においては膨大な書類作成をはじめ煩雑な作業があり、取材に伺ったご自宅の一室にも見渡す限りの書類があふれていました。その時間をつくるために、平井さんは深夜1時〜2時に起きて事務作業を2〜3時間かけて行っています。

その後、従業員が出勤してくるまで日誌に目を通し、前日の報告に返事を書きます。「疲れて明日は仕事したくない」と漏らす従業員がいれば、「俺だってつらいんだよ」と共感してあげて、「今は一番忙しい時なんだ。そこを乗り越えて頑張ってくれ。終わったら飲み会をしような」と優しく返します。「従業員は家族ですから。みんなと心がつながっていないと仕事になりません」と平井さん。従業員が出社するころには一仕事を済ませ、休む間もなく圃場へ行って農作業。そんな毎日を繰り返しています。

以前は桑折町の議員や農業委員、老人会の副会長、さまざまな総代など10を超える肩書を持っていた時期もありました。「大変なんてもんじゃないですよ」と平井さん。それでもなぜ続けられるのでしょうか。

「誰かに頼まれてやっているわけではなく自ら進んでやっていることですから、逃げるわけにいかないじゃないですか。今までのことを続けているだけでも商売としては成り立ちますが、それだけではやっぱり満足できない。毎日一歩ずつでも何か新しいことに取り組んでいきたいんです」と熱がこもります。「今の日本はだんだん疲弊してしまっているでしょう。私みたいなばかだって何かをやればできるんだと、みんなに元気を与えたい」

その情熱的な取り組みは、NHKをはじめとするテレビ局や全国紙、農業の専門紙などにもたびたび取り上げられ、着実に認知を広げています。「グローバルGAP」という名称や制度は知らなくとも、食の安全や安心への意識が急速に高まる中、消費者にも確実に伝わっていくことでしょう。一方で、「感謝農園という名前を分かってもらえてきているので、それを裏切るようなことだけはしないようにしなくてはなりません」と気を引き締めます。

「グローバルGAP」認証取得後、初めて迎える出荷シーズン。ここまではあくまで第1段階で、自らが課した営農の基準を保っているかどうか、その検証がこれから始まります。「グローバルGAP認証取得を大きな声で触れ回れるのは今年無事に出荷してからで、さらにそれを継続しなければ意味がないんです」と、いっそう気合が入ります。

その3 海外展開、販路拡大、見据える将来 につづく

  • その1「グローバルGAP認証取得、その苦労」
  • その2「苦労の中、それでも取り組む理由は」
  • その3「海外展開、販路拡大、見据える将来」