桃源郷の人々

その2「認証取得の苦労を通して得たもの」

はねだ桃園 羽根田幸将さん

「桑折町スマート農業実証協議会」にも参加しているはねだ桃園。各農家が圃場の土台をしっかり固めた上で、ICTを活用した新しい農業の形に挑戦するという協議会の方針に基づき、「グローバルGAP」認証取得に取り組みました。羽根田さんは当初、事務処理作業を手伝っていただけでしたが、その内容を自分で理解したいと本格的に携わるようになりました。

そこで待っていたのは、全てをデータ化し、あらゆる書類をそろえるという気が遠くなる作業でした。各圃場の写真と配置図、作付けの内容、周辺の圃場の状況、周囲の生産者が何を作っているか、緊急時にどう連絡を取るか、倉庫の見取り図、エネルギー消費量、水道光熱費車両費、水質調査に放射能検査、それら調査の信頼性の証明……その項目は200〜300。全てをそろえたバインダーは10センチ以上に膨れ上がっていました。

この手順通りにやれば取得できるというマニュアルなどありません。一例として示されているチェック項目を基に、自分の圃場に合うように項目を立てる作業から始まり、その安全性や妥当性を示す書類の作成・取り寄せ、必要な研修や講習も受け、審査・認証機関に対して現場で説明する必要もあります。あまりに手間のかかる作業で苦労しましたが、そのかいあって営農していく上での基礎基盤を確立できたといいます。

「今は父と2人でやっていますが、今後雇用できる体制になってきた際、こういう時はどうしてほしいとか、緊急事態の時にどういう手順で何をすればいいとか、そのマニュアルを把握して指し示すことができます。それはこれからの自分の営農に直結するので、本当にいいものを勉強させてもらえました」と羽根田さんは振り返ります。

「他の圃場との差別化でセールスポイントを一つ確立できたのも大きいですね」とも。食の安全性への意識が年々高まる中、生産者だけでなく消費者にも徐々に「グローバルGAP」の存在が知られてきており、今後それが独自の付加価値になることは間違いありません。

しかし、その付加価値や取得にかかったコストを商品の価格に反映することはまだしていません。現在、はねだ桃園の桃を購入するお客さんの多くは昔から支持をしてくれて、震災後の一番苦しい時に応援してくれた人たち。「これまで支えてくださった方々からもうけようなんて思っていません」と羽根田さん。

新たに改植した苗木が育ち、生産量が増えたころに2020年東京オリンピックがあります。選手村で提供する農産物について、「グローバルGAP」認証取得が条件になる可能性もあり、もしそうなれば強力な追い風になります。「そのころにはグローバルGAPという厳しい基準に基づいて作っているという安心感、ICTを活用した日々のデータ蓄積による品質の向上、さらに私自身の農業の経験値も付加価値に含めて、自信を持って高く販売できるのでは」と近い将来を見据えます。

その3 冷静な現状分析の先にある可能性 につづく

  • その1「若くして継いだ家族規模の桃園」
  • その2「認証取得の苦労を通して得たもの」
  • その3「冷静な現状分析の先にある可能性」